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社長が沢山買って来てくれたらしく、結構な量を食べたが、後半に差し掛かるとドラム缶にも持ち帰ってあげたいとソワソワする。
「お母さんに一箱用意してるから、安心していいよ」
木村さんも一緒に食べていたが、ウエットティッシュで手を拭くと私達の背後に立っていた。
「巨峰もしっかり食べたし、ちょっと頼まれてくれない?」
ギクリと肩が震え、引きつり笑いで木村さんについて行き、また罠に引っかかったと貧乏人の弱さに呆れるしかない。
大きなガラス張りの部屋には、小さな柵にテルデが眠っていて、検査の途中らしくイナリを保護した時の事を思い出す。
「ご存知の通り仕事を頼まれて、偵察を向かわせたんだけど……」
一旦言葉を切った木村さんに、ドキドキしながら顔を見つめてしまうのは、とんでもない事を言い出さないかという恐怖心もあるからだ。
「百合達と現地に向かいたいんだってぇ」
羊人間の執行仕事だったのに、巻き込み事故に合っただけでなく、反対車線まで飛ばされもう一度引かれたような気分だ。
露骨に嫌な顔をしたのを見ると、木村さんは口角を上げ、ほっぺの厚みで目が細くなると特別手当もつけると瑠里の方を向いた。
私は今の給料で満足しているし、それ以上稼ぐより安全を選択するとバレているので、お願いの時はお金の話を出し瑠里に振るの事が多い。
妹が参加を決めると姉は放っておけないので、自動で釣られるのを知ってる手強い釣り人だ。
瑠里も同じくテルデの暴言を聞いたので、断る雰囲気でホッとしたが、釣り職人は一筋縄ではいかなかった。
コソッとジャケットの内ポケットから、お食事券を三枚出すと、食欲の秋は家族で焼肉とか良いわよねと扇子代わりに仰いでいる。
一枚一万円と書かれているので、三万円分の焼肉が食べれるとなると……もう見るまでもなく、ガラス越しに瑠里はテルデをガン見していた。
「もう中に入れるから後は宜しくね」
食事券を両手で受け取り大事そうにバッグにしまうと、張り切って私の肩を叩き、参ろうとドアを開けている。
私達が入るとテルデは目を開け、待っていたと言わんばかりのドヤ顔をするので、嫌な予感は膨れていった。
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