聞き耳サプリ

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「ん……待てよ」 初めて会った時の暴言を思い返してみると、悪魔みたいな物言いで、日頃から趣味で拷問でもしている口ぶりだった。 もし日常的にそんな光景を見たり行なう環境なら、直ちに断わりたい。 「百合どうしたの?風邪でも引いた?」 母がコーヒーを淹れてくれたのは、絶対に休むなという圧力なのは分かっているが、瑠里はいつもと変りなく支度をしている。 「はぁ……お肉また食べたいね」 その言葉で現実に引き戻されたが、既に食事券を使った私達に、断るという選択肢がない事を思い出す。 職場に着くと木村さんがにっこりと微笑みつなぎを渡してくれ、ロッカーで着替えを済ませ、指示された部屋に向かういつもの流れだ。 「瑠里……不安で胃が痛くなりそう」 「いやいや、土壇場になると般若の方が落ち着いてるから大丈夫だよ」 フォローのつもりなのかもしれないが、安心できる内容ではなく、最終的には開き直るしかないと言われたようで緊張してくる。 部屋にはコーヒーとミネラルウォーターが準備してあり、後でサプリを飲むんだと思いながら紙コップを手にした。 説明役が来るまでにコーヒーを飲んで、まずは気持ちを落ち着けたいし最後のあがきとして無理な要素があれば、断るのも視野に入れておきたい。 待ち時間は五分もなかったが、気持ち的に一時間くらい長く感じているのに、瑠里は澄ました顔をしていた。 お疲れ様と挨拶して入る木村さんの手には、パンとサプリケースがあり目の前に置かれ、まずサプリを飲む所からのスタートだった。 こんな綺麗なサプリで動物の話が分かるなんて、イザリ屋の技術は相変わらず凄いし、交流がメーンの空蝉屋は同じようなアイテムを持ってるのかもしれない。 飲んだのを確認すると、まずはタブレット端末に一枚の画像が出てきたが反応に困った。 森の中に大きな牛がいるが、和やかな雰囲気ではなく、ガタイに見合った大きな角は一突きされたら終わりな気がした。 「牛……ですよね?見た事ない種類ですけど」 「でしょうね、だがらイメージ膨らみやすいように持って来たの」 木村さんの機転の良さはいつも尊敬しているが、今日はそれがあだとなり、断りたいモードは一気に加速した。
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