聞き耳サプリ

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「お待たせ――っ、さぁママと帰ろうね」 嬉しそうに王子達を抱っこしていたが、入口に向かう母の肩にイナリが顔を乗せ、ギラギラした目で他のペットを凝視している。 慌てて間に入って遮ると、チェッというように母の腕に収まって澄ました顔をしていた。 「王子たまにハンターの目になるよね、自分も子犬なのに」 「でも本当は二メートル近く大きくなると考えたら、あの子達なんて一口で終わるよね」 確かにイナリと一緒に保護したのは大型犬で、最終形態はアレだと思われれるが、予防接種時に細工されるのか小さいままだ。 この世界で暮らすにはコンパクトサイズでないと、住んでるのは会社の寮という名のマンションなので場所にも困る。 イナリが志願しここで暮らすと決まってから、目的は定かではないが、家族みたいな気持ちになっているのは事実だ。 おまけに第二号として、大蛇のくせに一緒に暮らしたいと言い出す腹黒のキセロまで加わり、現在五人で生活している貧乏一家。 イザリ屋で働いてなければ養っていくのは難しいが、命を張る仕事なので給料は高額だし、月の餌代も余分に割り振る事が出来る。 母は私達がパン工場の夜勤で働いていると思っていて、住む場所も用意してくれる素敵な職場で、定年まで働いて欲しいと願っている。 以前住んでいた四階建てのボロアパートから、最新家電が揃えられ、隙間風も入らない今の環境から離れたくないらしい。 娘を頼るダメ母を反面教師とし、高額の給料を手にしても辞めた時生活に困らないよう密かに貯え、安月給のフリを貫いていた。 「ねぇ、帰りはどこのポテト食べる?」 「運動にお金使ったから、コンビニでアメリカンドッグに変更」 お金の事で断ると貧乏人は何も言えなくなるので、母は頬を膨らませながら黙って運転していた。 王子達にオヤツをあげていると、ルームミラーで羨ましそうに見ていたが、家に帰れば自分用のストックがあるのを知ってるので同情する気にはならない。 マンションの駐車場に車を停め、コンビニに寄ってから自宅に戻った。 私達は順番にシャワーをする事にしたが、母は早速アメリカンドッグにケチャップをたっぷりつけ、テレビの電源を入れていた。
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