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「一人一本づつだからね」
食べる勢いがよすぎるので忠告すると、顔を歪めてからテレビ台の隣のストック箱に手を伸ばしている。
「なるべく間食しないよう心掛けてよ、食べるならせめて三時まで我慢」
「これくらい食べた内に入らないよ」
言い訳が多く自分に甘いので痩せないし、年齢的に代謝も悪くなっているので、食事制限だけでは足りないのに自己管理もなっていない。
「あ――っ!オヤツ食べてるっ!」
シャワーを終えた瑠里が声をあげると、仕方なさそうにかりんとうの袋を箱に戻し、コーヒーを淹れに立ち上がった。
「はぁ……早く夜勤行けばいいのに」
思わず出た本音に瑠里が反論し、私はバスルームに向かい今夜の仕事について考えていた。
四日間休みだったが合間にトレーニングに出ていたので、受付の木村さんからチラホラと情報を得たところ今日はチームでの仕事らしい。
無色から萌葱に刺繍がランクアップされてから、個々での応援が多く、チームで揃う事が少なかったので微妙に楽しみにしていた。
初めは言葉を話さないレベルの爬虫類等で、その日解決で終わっていたが、ランクが上がると潜入からの執行と日にちがかかる案件が多くなった。
敵のレベルも上がるので、自主トレを欠かさず前回に奇妙なチカラを使われてからは、狐の世界の朧の所へキツい修行にも行っている。
貧乏人の私達が頑張る理由はお金の為だが、せっかく高い給料を貰ったんだから、多少は使いたい……となると簡単に殺される訳にはいかない。
不純な動機も含めての自主トレだが、社長達にはそれでいいと言われているので、お互いの利害は一致している。
貧乏で農家の血筋、且つ刻印が身体に浮かんだ者だけがイザリ屋で働けるので、下を向いて生活してた私達には一筋の光となった。
仕事で新しい体験をしたり見て驚いたり……異世界は怖い事が八割だが、残りは景色が良かったり食事が絶品だったりたまにいい者もいる。
この世界では人見知りで馴染めなかったが、違う世界では知り合いも少し増え、将来的に向こうで暮らすのかと思う程だ。
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