聞き耳サプリ

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「軽いのにあったかいし、真冬になったらコートの下に着れそう」 「色違いを買っておけば良かった……いや、もう一枚はセールを待とう」 いつもならセールを待つところだが、プロパーの時点でも五千円台は私達にはドキドキする買い物だ。 しかも仕事メーンの上着なんて安くて十分だと思っていたが、ここの気温の低さと木村さんに勧められたのもあり、妹と買いに行ったのだ。 以前だとこんな買い物は絶対に無理だったが、今は余裕で購入出来るとしても、極力生活基準を上げず贅沢は殆どしていない。 受付では木村さんがニッコリと微笑み、ロッカーで着替えを済ませると、部屋を指示されてコーヒーを飲んで待つ。 イザリ屋のコーヒーが美味しいのは、その日の気候等で種類を変えてあり、特別なパン同様に体調を整えてくれるので少々では風邪も引きそうにない。 救護班の薬も優秀なので、怪我をしたとしても家に帰るまでには何事もなかったように綺麗に治ってしまう。 コーヒーを飲んで椅子で待っていると、リーダーに続き萌葱刺繍のメンバーと最後に木村さんも部屋に入って来た。 「お疲れ様です」 「おぅ、久々だな!また派手に暴れてないだろうな」 第一声がそれかと顔をしかめ、暴れん坊キャラは妹だと無理やり納得したが、後ろのボンレス体型を見るとイラッとして口を開いた。 「年中その体型ですね、ウチの母も同士ですけど」 「おい、遠回しにデブって言いたいんか!相変わらず失礼な奴だな」 お約束のやり取りしていると、その様子を和音(かずお)さんが優しく見守るという光景も久しぶりだ。 「昨日照ちゃんが新作を持って来てね、その中に面白い改良品があるから見せたくて」 木村さんは黒い小さなサプリケースを出し、中には青と赤のサプリが一つづつ入っていた。 勿論ただのビタミン剤でないのは分かるが、透き通った綺麗な色は毒のようにも見える。 「これ……劇薬とかですか」 「ううん、動物の話が分かる通訳サプリの改良版、姉妹は興味なぁい?」 まず頭に浮かんだのはイナリだが、ボロカス言われたら立ち直れそうにないので、微妙な表情になっていたのかもしれない。
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