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「あれ?この時間って町奉行の話じゃなかった?」
「昨日から風来坊シリーズがリマスター版で復活してね、楽しみが一つ増えたんよ」
確か身分を隠した侍が密命で全国を回り、目的地で宿を取り仲間と悪事を暴く感じの話だった気がする。
ボロアパートに住んでいた時に何度か見た事があったが、主役のキメ台詞が始まると、母が真似をしてウザかったという印象しかない。
おまけに今は同士が二匹も増えたので、きっと騒がしいクライマックスを迎える事だろうと肩を落とした。
あの頃はバイト先で人間関係が上手くいかず辞め、早く次を見つけろと怒られてばかりいた。
生活基準が違うので話にもついていけなかったし、お洒落やお高いカフェでお金を使う余裕もなく、惨めな思いも沢山してきた。
十代で働くと言っても生活がかかっている者と、自分の為に使う理由では必死さが違い、仲間外れの対象にもされていた。
お金持ちに対していい印象がないのは学生の頃からだったが、働き出してから強く思うようになった気がする。
今の仕事は大変だが人間関係でストレスはないし、何とか続いてるおかげで、お菓子も自由に買って食べる事も出来る。
スナック菓子を噛みしめ妹達の後ろ姿を眺めていると、やはりこんないい所で生活出来るのは有難いし、辞める訳にはいかない。
という事は魔術か妖術か分からないが、いずれあの技も使えるようにならないとダメという事だ。
テレビに視線を移すと村民達はお祭りなのか神社の屋台で買い食いしたり、子供達が走り回って楽しそうだ。
「あっ!お祖母ちゃん家の近くの秋祭りで餅撒き参加……」
思い出したように母がいうと主役が敵に囲まれ、自分が話をしていたのに、私達にシッと合図して画面を見つめていた。
「祭囃子に誘われて、やって来ました風来坊……弱い者から生き血を吸う輩を……」
「ちょっと、テレビより声がうるさい!」
主役だと言わんばかりの母の隣には、ドヤ顔を決めたイナリ達が姿勢よく立っていて、もう苦笑いするしかなかった。
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