祭囃子《まつりばやし》に誘われて

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田村さんだったらかなり嬉しいが、親族の誰かだと分かっているし、樹さん辺りだと差支えないがそれ以外は全部ハズレだ。 ハツさんが母を紅葉旅行に誘うから心配いらないと言われたが、気になるのはそこではなく私達の安否だ。 河童の世界はゲーム感覚でイザとなれば止める事も出来るかもしれないが、私の相手は朧なので嫌な予感が拭い去れない。 「狐の修行ってどの世界でも手加減なくて、出来れば行きたくないんですけど……」 この世界のキツネは社長という意味だとすぐに察した木村さんは、吹き出してから咳払いで誤魔化して先を続けた。 「牛のチカラが解放される時傍に居るのが狐だとかなり心強いわよ?勿論河童もだけどね」 確かにものすごい化け物が飛び出して来たとしても、朧なら封じる事が出来そうだし、河童のトップもヤバいチカラで何とかしそうな感じだ。 完全に見た目だけの判断だが、朧が瑠里に指定したのが河童の世界という事は、何か意図があるに違いない。 「何かあれば電話してくれたらいいから、安心して行ってらっしゃいな」 連絡して助けがすぐに来た記憶はないが、木村さんに言われると疑いながらも頷いてしまう。 その日は大人しく帰りデリバリーを頼んで夜はハンバーグ弁当に舌鼓をうった。 言うまでもないが他二人は焼肉弁当で、母は注文直後から部分入れ歯をしっかりとはめていた。 旅行前に手抜きが出来てラッキーぐらいにしか思ってないだろうが、私は最後の晩餐というようにしっかりと味わっていた。 ベッドに身体を沈めた際にお守りを握ってみたが、今までみたいな変化はなくそっとバッグにしまう。 翌朝は早くからリビングで音がしていたが、布団に潜って聞こえないフリをし温かい感触を楽しんでいた。 「ちょっと、今日は昼に出勤するんでしょ私はもう出かけるわよ!」 見送れと叩き起こされると、イナリ達を宜しくと荷物もまとめてあり、娘よりも心配されてるのがよく分かる。 母を見送りイナリ達がオヤツをガツガツ食べてる姿を見ていると、ハッと気づいて笑みが漏れた。 「そうだ、王子が一緒なら大丈夫かもしれない」 私よりずっと強いのではという位、いつも驚かされるナイトを置いて出た母に感謝し、ホッとしてコーヒーを飲む気になれた。
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