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「瑠里、そろそろ起きて」
いつもなら母が起こしに行くが、出かけてしまったので頃合いを見計らって声をかけると、案外スンナリと部屋から出てくれた。
「河童の世界楽しみなんだよね」
「でしょうね、ゲーマー同士話に花も咲くだろうよ、オヤツも沢山あるし羨ましいわ」
朧の住まいは人気もないし、仙人が暮らしそうな場所だが、河童の世界はイタリアに行ったみたいに景色もいいし食べ物も美味しい。
「コンビニでグミとお菓子も土産に買わないとだし、少し早めに出ようね」
妹が支度をしてる間にパンを焼き、王子達に用意されている服を着せ、忘れ物と火の元のチェックしておいた。
パンを食べ服に着替えると瑠里はバッグに何やら詰め込んでいて、ずっしりとした膨らみもある。
キセロのオヤツや着替えにしては荷物がありすぎると首を傾げていると、忍者探偵Ⅹの単行本を持参して読ませるつもりらしい。
ちょっとした観光気分の妹に引き替え、こちらは家を出る頃には足取りが重くなっていた。
「よっぽど手に負えない時は、私に連絡していいからさ」
瑠里にも励まされ何とか職場に辿り着くと、受付では変わらず木村さんが微笑んでいて着替えを渡してくれた。
指示された部屋でコーヒーを飲んでいると、リュックを持った木村さんの後ろから滋さんと田村さんの姿が見えたので顔が強張った。
『田村さんはどっちに来るの?!』
姉妹で表情に出ていたようで、滋さんはコーヒーを手にして田村さんを睨んでいる。
「普段の行いでしょう、滋は人に冷たい所があるから」
「そう?月影姉妹には優しいと思うけど」
合宿の時に女子に対し拳で戦いを挑んできた悪魔に、優しいと言われてもピンとこないし、あの時は顔面血だらけで死ぬかと思った。
立花家の人は私達を『使えるか否か』でしか判断せず、見返りとして金を払うビジネスパートナーだと割り切るしかない。
「そんな怖い目で見ないでよ、ダーリンがお供するから不安は消えるって」
「えっ?!田村さん来ないんですか」
ガッカリと肩を落としていると、瑠里も気の毒そうな顔でコーヒーを口に運んでいた。
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