祭囃子《まつりばやし》に誘われて

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「ひどいな……仕事を他の奴に頼んでまで志願したのに」 どうせボロボロにされるのを見たいか、自分のトレーニングを兼ねているに決まっている。 瑠里は天国でこちらは地獄行きの切符を手にしたのは確実だが、なんせ強い味方がいる。 家であんなに食べたのに、木村さんからもオヤツを貰い、まるで初食事の如く勢いのいい王子が。 キセロも同じスタイルなので、月影家に来た者はみんな卑しさが磨かれるようだ。 何かあれば電話という軽い説明なのは、安心出来るお供がいるからだろうが、こっちは全然落ち着かない。 足取り重くパネル部屋に向かい、瑠里の方をチラチラ見ると田村さんと雑談をしながら和やかな空気だ。 それに引き替え、お供も行った先も死神しかおらず、助けてくれるような天使は何処にもいない。 イナリしか味方はいないが、滋さんは初期にしつけ担当で接点があるので、手放しで喜べない感じだ。 「帰ってくる頃、クリスマスケーキの予約カタログ仕上がってるから楽しみにね」 それを待ってるのはウチのドラム缶だが、木村さんの気遣いに答えるよう、引きつった笑顔を見せ扉を潜った。 てっきりいつもの山奥だと思っていたのに、大きな体育館みたいな建物が見え、キョロキョロと辺りを見渡した。 「朧が住んでる場所の下側のようだね」 滋さんが説明をしてくれていると気配を感じ、前を見るとスゥッとお化けのように二人が姿を現した。 「こんにちは、小僧……は逃げたんかな?」 「いえ、社長は外せない予定があり、その代役をお願いされましたが断りました」 身内というか、社長の指示は聞けよと思ったが、他人だけではなく親族にも容赦ない死神に呆れていた。 「なるほど、まぁ中へどうぞ」 建物の中はバスケットが出来そうな綺麗な床で、しっかりと艶が出ているが、電気がついてないので薄暗くて気味が悪い。 「能力を出すには少し不便な環境を作らんと……あっ、グミ出しといてくれる?」 数種類見せると嬉しそうに目を細め、真ん中に移動するよう指示されたが、こちらの心臓はバクバクしていた。 緊張と恐怖で脈が波打ち、種も仕掛けもあるのが分かってる場所に一人で行くのは怖くて仕方がなかった。
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