祭囃子《まつりばやし》に誘われて

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「今日は物語調でいきましょうね……」 パチンと指のスナップ音がすると室内が、時代劇で見る城下のような風景に変化した。 いつもテレビでお目にかかる光景だが、河童の世界で参加したゲームみたいにリアルで……といっても専用のメガネ等はつけていない。 脱出不可能のゲームになるのでこちらの方が怖いし、隣に滋さんの姿はなく警戒しながら隅を歩く事にした。 「どの世界がモデルなんだろう」 見た目で何人間か分かる動物や爬虫類ばかりで、違和感なく共存してるのは不思議だったが、船宿まで歩くと異変が起こった。 橋を渡ろうと角を曲がった所で宿の二階で食器が割れる音がし、思わず足が止まる。 男達の言い争う声がし、女性の悲鳴も聞こえたのでここにいたらマズいと駆け出すと、上から何かが飛んで来て遮られた。 「ぎゃあぁぁぁ!」 片腕がなく無残な傷をおった遺体はもう何人間か分からないが、私と周辺にいた者が驚いて悲鳴をあげていた。 こういうのを見たのは犬の世界以来だが、怖すぎて一瞬足がすくんでしまう。 逃げなきゃと頭では分かっていても、足が動かずにいると、窓から大きなトカゲ人間が下りて来て周囲を睨みつけている。 「うるさい!騒ぎ立てるとお前らも全員喰らうぞ!」 こんな目に合わせたのは俺だと言わんばかりに、ワニのような口の周りには血痕がついているし、それを手で拭ったのか腕も真っ赤に染まっている。 声を立てないようその場を離れようとしたが、トカゲは近くにいた女性の腕を掴むと、女は狂ったような叫び声をあげた。 どうやら最初から逃がす気はなかったようで、女性を捕らえても、獲物を探すように他も見てるのが何よりの証拠だ。 捕まった女の子供なのか、男の子が地面に座り込んで泣いているが、その声もトカゲを逆なでしているらしい。 「ガキを先に喰ってやろうか」 「止めて下さい!」 このままでは二人共殺されてしまう流れだが、何故かトカゲは足を止めこちらに目を止める。 「――なんだ、その目は」 「なんでやねん!大人しく光景を見守っとっただけやろが!」 騒ぐ事もなく、余計な手出しもしてないのに、視線がくる意味が分からず少し逆ギレた。
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