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納得がいかず苛立ちを覚えるが、トカゲがこちらに向かってくると、何処からともなく祭囃子が聞こえてくる。
「台詞言ってる場合じゃねーんだよ、変な演出いらいないし、大トカゲに喰われそうなの誰か助けろや!」
「喚くな、一瞬で楽にしてやる」
すぐに襲ってくると思いきや周りに結界のようなものを張り、蜘蛛の巣にかかった蝶の気分だったが、ガタイに見合わず細かい性格らしい。
牛の時とは違い身体は動かないが、息苦しさはなく麻酔にかかったように身体が痺れているといった感じだ。
「てか……もう敵の罠にかかったって事じゃん」
さっき食べたばかりなのにすぐに次の獲物なんて、ライオンだってそんな襲わない筈だ。
こんな所で餌になってたまるかと気合を入れようとしても、身体に力が入らず稲膜も薄れてきている気がする。
トカゲに胸倉を掴まれた時、何かが頭に飛んできたが激痛で、怒りと共に落ちた物体を見ると割れた御猪口だった。
「誰じゃいこらァ、危ないやろがレディに向かってこんな物投げるんじゃないよ」
「うるさい!近くで大声出すな小娘が」
強い力で腕を掴まれ口を開けた姿はワニにしか見えなかったが、振り払おうと思った瞬間、大きな風圧でトカゲが船宿まで飛ばされていた。
木造で作られた建物を破壊し木の中に埋まったトカゲの周りを仲間が囲んでいたが、構わず次の攻撃に入ろうとすると、キレたトカゲが飛び出して来た。
「ぐうおぉぉ――!」
握った拳からは光が漏れていたが、無意識に左手を翳し、右は殴り返せるように構えておいた。
飛び掛かってきたと同時に左手から炎が勢いよく出て、竜のように敵の周りで泳いでいたかと思うと、右手からは風が出て竜巻のように回転する。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
炎の渦から苦しそうな悲鳴が聞こえたが、跡形もなく消える光景を目の当たりにし、仲間は逃げ去ってしまった。
見物人も沢山いたのでどうしようかと思っていると朧が姿を現し、周りは何事もなかったようにいつもの生活に戻っていた。
勿論二階から投げられた遺体もないし、私がいた時間だけ切り取られたような感じだ。
「今のは惜しい、持ってるパワーが強すぎて二度目に張られた結界に気づく事なく燃やしてしまいました」
朧が出した幻影と必死で戦ったらしいが、手の平で踊らされてる感じでとても敵う訳がない。
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