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ミーちゃんとご褒美
「――えっ?!合図ないの」
狛犬はいきなり闘牛のようにこちらに走って来て、全員を蹴散らす気満々だ。
身体から薄っすらと青い炎が出て神々しく、戦いを挑む時点で罰が当たりそうだが、神社にお参りしているし修行だと言い聞かせた。
意識を集中させ前を見据えたが、王子の風の球体がどんどん大きくなり、こちらまで巻き込まれそうなので一歩下がると狛犬と山金犬の力比べが始まった。
イナリは風球の回転を上げ牛……いや、狛犬にギュルギュルと押し付けているが、相手も負けじと頭と角で応戦している。
「ちょっと……イナリ」
風球の中にいる王子に聞こえる筈もないが、当事者よりやる気になったイナリは危険でしかない。
「王子――っ!スルメあげるから一旦止め……」
ガツッと音がしたかと思うと、思い切り後頭部を殴られ、激痛と共に目の前が真っ暗になった。
「……やり方が姑息なんだよ、女性相手なのに背後から一撃なんて」
状況から判断すると犯人は桜舞だが、滋さんのように勝負になると女でも容赦ない器の小ささに腹が立つ。
「さてイナリの事も気になるし、早く止めに行かないとってここ何処?!」
周りは真っ暗で仰向けに倒れている状態だが、身体が思うように動かない。
まさかとは思うが、さっきのでもし死んだとしたら、アイツらを呪い殺しても足りない状況だ。
いくら神と崇められる存在とはいえ、やっていい事と悪い事の加減がないなんて有り得ない。
「許せん……百歩譲って親族が一人殺られたならまだしも」
母と王子の為に真面目に働き、特に贅沢もせずレベルアップしろとプレッシャーをかけられても健気に頑張ってきた。
まだ食べてない美味しい物だって沢山あるのに、こんな形であの世に送られる覚えはない。
ただ異世界では不祥事は揉み消すのが当たり前なので、事故死として真相は明らかにされないまま、狐と死神の腹に収められるかもしれない。
我が家の大黒柱の一人としてまだ冥途に送られる訳にいかないし、仕返しもしないまま死ぬなんて悔いが残る。
成仏も出来ず亡霊で彷徨う図が浮かび、今までにない怒りで全身から火が出る勢いで感情が揺さぶられた。
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