ミーちゃんとご褒美

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「いや待てよ……」 勢いに任せ失敗する事が多いので、死んだかもしれないが一度落ち着く為に目を閉じてみる。 相手は何でも出来る神なので、後先考えず攻撃しても魂を燃やされ一瞬で終わるかもしれない。 相変わらず辺りは真っ暗で、目を開けていても瞑ったような感じだ。 少しすると真っ黒だった頭上に、穴が開いたように田舎の風景が浮き出されたが、すぐに場所が分かった。 いつも妹が草刈りに駆り出される祖父母宅の周辺で、田んぼの中央に大きな石碑があるのが目印だ。 何故あるかは不明だが、小さい頃からなので特に違和感もなく、何度か近づいた事はあるが文字も読めず『大きな石』と呼んでいた。 視界が田んぼからお寺の方に移り、その奥は家畜や乳牛を育てている家の方向だった。 小さい頃牛に餌をやると、周囲に育ったナツメを褒美に貰えたので、それ目当てに手伝いをした記憶がある。 親指位の大きさの茶色の実だが、かじってみるとリンゴのような味がしてオヤツ代わりになっていた。 中でも大きく毛艶が良いのはミーちゃんで、草をよく食べ牛舎の一番奥にいて、ボス格で怖かったのを覚えている。 子供だったので牛の顔はとても大きく、右から左に回転するように口を動かす仕草は、石臼のように力強かった。 自分の恐怖を紛らわす為、あえて可愛いネーミングにして熊手で草を運んでいた。 おじさんにその子はオスだよと言われたが、他には思いつかず、餌をあげる時にはいつも決まった声がけをしていた。 「ミーちゃんご飯だよ、しっかり食べようねお互い」 私はその後に貰える褒美を、ミーちゃんは身体が大きいので沢山食べていう気持ちだったのかもしれない。 今は牛舎もなくおじさん達もいないが、息子さんが果物か何かを作っていると母から聞いた気がする。 映し出されているのは当時なので、寺の上の坂道の牛舎はそのままだ。 ただ昔が映像化されてる時点で、本気で死んだのかと不安になったが、遠い記憶と照らし合わせ無言で見ていた。
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