ミーちゃんとご褒美

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滋さんはイナリと隅で見学しているが、チェック柄の温かい服を着て、飼い主よりも衣装持ちだがよく似合っている。 小型犬は暖かくしないと体調を崩すと母の言い訳に目を瞑り、服を買っても怒ってないが、キセロもいるし節約させねばと一瞬他の事に気を取られた。 「そんなんじゃ……もう殺られてるよ」 「す、すみません!」 素直に謝り気合いを入れようとしたのに、目の前に私が血を流し首が半分外れる映像を出され、思わず叫び声をあげた。 「こういう感じになりたくないなら、休憩以外はいつも気を張っててね」 「……はい」 朧に滋さん、桜舞までもが死神に見えてしまうと自分以外は敵だと思うしかない。 冷酷で無茶な要求を出し拷問に近いようなトレーニング……そうだ、例えるなら貧しい農民から法外な年貢を納めさせる悪代官とその一味だ。 敵と思ってトレーニングするにも、まずは気持ちから入ろうと妄想好きな想像は膨らんでいく。 武器も持てない農民は自らの意識を高めるしかなく、直接城に乗り込んでも勝ち目はない。 いつも田畑を見回りにくる家臣から攻めていくのだが、こいつは変な魔法を使い農民から楽しみなオヤツを奪う悪党だ。 瑠里がいれば仕置に岩のような柏餅を落としてもらうところだが、生憎出す事が出来ない。 そんな村娘が使える武器といえば……牛舎で飼われてるミーちゃんのチカラだけ。 自らが牛になる事は出来ないが、村人からオヤツを守る戦士……いや農士として立ち上がるしかない。 「うん?なんか気合いに満ちてる……」 桜舞が楽しそうな顔で例の金縛りをかけてきたが、牛にそんな狐技が通用すると思うてかと、役に入り込むとすぐに解け面白くなってきた。 「――えっ?!」 桜舞も目を見開いていたが、私にはもう前にいるのは悪代官の手下にしか見えていない。 「牛の底力を舐めるでない、菓子は私が守る!」 おかしな方向だと分かっているが、こういう設定があった方がやり易いのは、身近のなりきり忍者探偵Ⅹの影響かもしれない。 桜舞はすぐに普通の顔に戻り、新たな技をかけようと構えていたが、次はこっちが先手を取ってやると意識を集中した。
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