4.ふたりの間の不協和音

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「あまり飲みすぎないようにしてくださいね」  今はこれくらいしか思いつかない。志摩さんはグラスを手に取り、力なく笑った。  すると急に志摩さんが目を見開いた。わたしじゃない、別のところを見ている。 「じゃまするつもりがないんなら、もう二度と彼女を変な目で見ないでくれるかな」  突如、割り込んできた声に驚いて、わたしは慌てて振り返った。 「ちょっと目を離すとこれだ。こういう席でほかの男とふたりきりになるなって、何度も言ってるだろう」  航はわたしの目を見て言う。  わたしへのセリフではあるけれど、そこに込められた敵意の矛先は考えるまでもなく、志摩さんだった。 「ふたりきりじゃないでしょう。まわりにたくさん人がいる」 「それを認めたら、レストランや遊園地、水族館なんかのデートも認めなきゃなんないだろう」 「またそうやって屁理屈(へりくつ)言うんだから」 「美織が危なっかしいからだろう。昔から無防備っていうか、隙がありすぎなんだよ。だから簡単につけ込まれるんだ。おまけにまんざらでもない顔しやがって」 「そんなことない! 航はわたしのことを信用しなさすぎ!」  なにもそんなふうに言うことないじゃない。こんなに好きなのに。航に出会ってからは、いつだってわたしの心のなかには航がいる。航だけなのに。
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