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「宝来はいいと言ってるぞ。シロ、お前もいいよな」 言外に面倒を掛けるなと、凄まれた僕はシブシブ頷くしかなかった。 「よし。決まりだな。ーー早速だが、仕事だ」 部長はニコリと笑ったあと、顔を引き締めると僕が握り締めていた診断書を奪い取り、代わりに別の用紙を握らせた。 「兼松弥生、17歳だ。時刻は午前10時30分20秒。死因は交通事故。交差点で居眠りのトラックにはねられ即死だ。一応、回想にも連絡を入れておけ。突然の事故死だ。未練もそれなりにあるだろうからな。回想に与えられる時間は48時間だ。今回の案件で待てるギリギリの猶予だ」 「分かりました」 回想係には時間が定められる。無期限にしてしまうと、ダラダラと時間ばかりが掛かってしまうと言うのが、理由だ。亡くなった魂の年齢や環境に合わせ、適当だろう時間をコンピューターが算出する。 今回は48時間。つまり2日間だ。まあ、妥当なところだろう。 「そのあと、近くにある総合病院へ回れ。本来は別の者の仕事だが、人手が足りない。相原トネ、85歳。時刻はーーーー」 僕は書類に目を通しながら、横目で宝来さんを窺うように見ていた。真剣に話を聞いている彼はドキリとするくらい男前だ。 そりゃモテるわなと、心の中で嘆息した。僕にはないものばかりを持つ宝来さんに対して、羨ましいとまでは思わないけど。 部長は合計3つの案件を僕達に押し付けると、しっしっと猫の子を追い払うような仕草をした。僕と宝来さんは頭を下げて、備品庫へと向かった。 その間ずっと無言だ。一応、宝来さんの方が先輩なんだから、気を遣って話しかけるなり、もしくは愛想よくすればいいのに、ムスッと押し黙るものだから、話しかける気にもならなかった。 そんな顔をするくらいなら断ればいいのに。 こんなんで仕事が滞りなく出来るのだろうか。甚だ疑問だった。
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