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「ーー15秒」 宝来さんの声と共に、キキキッィィィと耳をつんざく音と、ガシャンッて何かが激しくぶつかり合う音が響いた。一瞬の静寂が落ちる。まるでこの世の時間が止まってしまったかのようにシンと静まり返った。 「時間だ」 ほんの僅か数秒の時を刻み、辺りは騒々しさを取り戻す。女性の悲鳴のような声に紛れて子供の泣き声、男性の救急車と叫ぶ声。 交差点では、路肩に突っ込んだトラックが見える。人が血溜まりの中で何人か倒れていた。痛みを訴える呻き声が、辺りに響く怒声が、事故の凄惨さを物語っていた。 「本当に犠牲者はひとりなのかな」 「今の時点では、だろうな」 僕の呟きに冷静な声が返ってきた。見上げれば、サングラス越しの目が見返してきた。 「慣れないか?」 労わるような声音に僕は目を瞬いた。 「どうして?」 「・・・いや、なんとなくな」 目を逸らした宝来さんから、僕も顔を背けた。ほんの少し気まずい沈黙が流れる。それに耐えられなかった僕は、言い訳がましい言葉を口にする。 「僕は元々、心を持たないぬいぐるみだったから、よく分からないよ」 自分でも空々しく響く声。でも宝来さんは突っ込んだりはしなかった。そうかと小さく呟き辺りを見渡した。 「ーーーー対象者だ」 騒然とする現場で、ひとり立ち尽くす女の子を発見する。自分の足元をジッと見つめる彼女の元へと向かった。
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