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「落ち着いて下さい。僕達にそんな力はないし、そんな権利もない。ただ、お亡くなりになられた方をお連れするのが仕事なんです」
「そんなの信じられるはずがないでしょ?私はただ、信号が青に変わったから道路を横断してただけなの。それなのに・・・どうしてよ・・・今日は、デートだったの。初めて出来た彼氏とデートの約束をしてたに・・・」
兼松さんはそう言うと、ハッとしたような顔をしてポケットを探り始めた。
「どうかしましたか?」
「今、何時?これからデートなの。遅刻になっちゃうじゃない」
「遅刻って・・・」
「ずっと好きだったの。玉砕覚悟で告白したらOKを貰えて、付き合うことになって・・・楽しみにしてたの。行かなきゃ」
ふらりと移動しようとする彼女に「忘れてませんか?貴方はお亡くなりになったんですよ」と、殊更ゆっくりと告げた。
「だ、だから何よ」
「仮に待ち合わせ場所に行かれたとしても、デートは出来ませんよ」
意地悪な言い方をした自覚はあった。僕の話を聞いてくれない彼女に対して、僕はひどい言葉を投げつけてしまった。言い過ぎたと思った時には、その言葉は既に滑り落ちていた。
「シロ、止めろ」
「な・・・何よ、あんた最低!」
宝来さんの諌める声と彼女の声が重なった。
彼女は目から涙を零し、僕を睨み付けていた。
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