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「すみませんでした」 都築さん達が居なくなったあと、僕は宝来さんに向かって、頭を下げた。 回収しなくてはいけない魂を闇に落としかけた。宝来さんが居なかったら、確実に彼女は闇落ちしただろう。一番してはいけないミスを犯したのだ。 だから物凄い叱責を覚悟していた。怒鳴られ殴られても文句は言えない。 「シロ、お前が謝らなきゃいけないのは俺じゃないだろ」 僕はその声に顔を上げた。 「はい。回収する時に、彼女にはきちんと謝罪しようと思っています」 「そうか・・・ならいい」 「よくありません。僕の心ない言葉のせいで彼女は傷付き、闇に囚われかけました。宝来さんにも迷惑をかけてしまいました」 僕が言い募ると「そうだな」と、宝来さんが肯首した。 「でも、お前はそれをちゃんと分かっているんだから、俺に言うことは何もない」 素っ気ない口調で言われ、僕は突き放されたような気持ちになった。僕の耳と尻尾が、さっきからずっと萎れていたのだけど、更に萎れてしまったような気がした。 「落ち込んでいる奴の傷口に、塩を塗りたくる趣味はない」 かなり落ち込んでいる僕に、宝来さんがため息混じりの声でそう言った。 思いの外、優しい声に僕は目を向けた。 「俺はお前のバディだ。さっき、迷惑をかけたって言っていたが、迷惑も面倒も全部引き受けてやる。今日出来たばかりの相棒だから頼りにはし難いだろうとは思う。信頼関係なんて、一朝一夕で出来るはずはないからな。お前のフォローをするのは、俺の役目だ。逆に俺のフォローをするのはお前の役目だ。お互い様なんだから気にする必要はない」 淡々とした口調だったけど、真摯な目が僕に本心なのだと伝えてくる。いつも睨み付けられて、嫌な人だと思ってたけど、本当はいい人なのかな。もしかしたら、僕は宝来さんのことを勘違いしていたのかもしれない。 現金な僕の尻尾が、コートの中でゆらゆらと揺れるのを感じながら、そんな風に思っていた。
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