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その後、僕達は二件目の魂を回収するために、病院へと向かった。大往生まではいかないまでも、85歳まで生きて天寿を全うした女性は、家族に見守られ静かに息を引き取った。 その魂も穏やかで、僕達を見ても慌てる様子もなく「随分とカッコイイお迎えさんだね」と、目を細め笑っていた。 もちろん、その賛辞は全て宝来さんへと向けられているのだけどね。 「じいさんが迎えに来るのかと思っていたよ」 「ごめんなさい。現世で関わった人とは会えないんです」 「そうなのかい?」 「はい。もし、あの世で会えたとしてもお互いに気付くことが出来ない決まりになっています」 中にはそのことに、ひどく落ち込む人も居るから、僕は彼女の様子を窺いながら、慎重に言葉を紡いだ。 現世でもルールがあるように、あの世でもルールがある。これもその内のひとつだ。 現世での繋がりは、あの世の世界では断ち切られてしまう。よく家族が迎えに来てくれるのかと思ったってガッカリされるのだけど、実際は違うのだ。 理由は教えられていない。ただ、人は妬みや嫉みなどの負の感情を強くすると、魂を傷付けてしまう。現世に於いて、歪な家族関係や、人間関係しか築けなかった人も多く居る中で、現世からの強い絆を見せつけられることを、良しとしない人もいるから、それを防止するためかもしれない。 現世の恨みを、あの世に持ち込んでしまうことを危惧してのことかもしれない。 本当の理由なんて分からない。全て推測や憶測だ。 お互いが同じ条件の元で、新たな繋がりを築いていくのが、今のあの世でのルールになっている。
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