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「そうなんだねえ」 嘆息混じりのその寂しげな声音に、僕の耳と尻尾がピクリと跳ねた。一件目の兼松さんが脳裏に思い浮かぶ。僕はまたミスを犯してしまったのだと、自分の浅はかさを呪った。 「ほ、本当なんです。嘘じゃありません。おじいさんが会いたくなかったから、代理を頼んだとか、そういうんじゃなくて、あの世のルールで来たくても来れないし、会うことも許されないんです」 「シロ、落ち着け」 宝来さんが僕を止めようとしていたのは、何となく分かっていたけど、僕は宝来さんの制止を無視して「そうですよね。宝来さん」と、彼の腕を掴み揺さぶった。 僕に気圧された宝来さんはああと、呟き頷いた。 「ほら、この人もそう言っているでしょ?本当に仕方がないことなんです。だから、そんなに悲しまないで下さい。もし、こんなルールがなければ、おじいさんは絶対にトネさんを迎えに来てたはずだから」 僕は必死だった。忙しなく動く耳や尻尾がその心境を表していた。どう言えば理解して貰えるのかが分からなくて、上手く伝えられない自分が悔しくて、唇を噛み締めた。 「シロちゃん」 優しい声に顔を向けた。穏やかな瞳が僕を見ていた。 「そんな顔をしないで。責めている訳じゃないんだよ。もし迎えに来たら、生きてる間に言えなかった恨み言でも言ってやろうかと、思っていただけだからね」 彼女はそう言って朗らかに笑った。
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