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トネさんの魂を回収したあと、もう一件回って、午前の業務が終了した。食事をするために、宝来さんと二人で食堂に向かう。
会話は未だない。でも、備品庫に向かっていた時に感じた重苦しい雰囲気はなくなっていた。それは、僕の中で宝来さんに対するイメージが変わったせいかもしれない。
あの、一番最初の案件での僕のミスに対して、宝来さんが言ってくれた言葉が僕の彼への見方を変えた。朝はどうなることかと思ったけど、どうやら僕はこの人と上手くやっていけるようなそんな気がしたんだ。
それは嬉しい誤算だった。だって、本当に無理だと思っていたから。
このまま仲良くなれれば、もしかしたら僕も城戸くんのように回想へ口を利いて貰えるかもしれない。そんな打算的なことを考えながら、食券機の列に並んでいると「えらい勢いで尻尾が揺れてる」と、聞き覚えのある声が背後から響き、僕の体に腕が回った。
僕はチラリと背後を見遣り「纏わりつかないで下さい」と、冷たく言い放ってやった。
「シロちゃん、冷たい」
辰さんが泣き真似をしながら僕から腕を外す。
「大体、僕の尻尾はコートに隠れて見えないはずです。揺れてるかどうかなんて分からないでしょう」
この後も仕事だから、着替えはしてない。武器はさすがに危険だから返したけど。
因みに辰さんは、何故か女物の着物を纏っていた。黒地に赤い牡丹が艶やかだ。似合ってはいる。妙な色気を感じてドキドキする。
でも、辰さんに女装趣味があるなんて初めて知った。
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