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辰さんの女装姿を突っ込むべきか、スルーするべきかで悩む僕の耳に不穏な言葉が届いた。
「そのコートの上からでも分かるくらい、激しかったよ?思わず捕まえたくなっちゃった」
僕はピクリと耳を震わせる。両の手を、まるで見せつけるかのように、閉じたり開いたりを繰り返す辰さんからジリジリと後ずさった。
尻尾は僕の急所だ。そんなところを掴まれるなんて冗談じゃない。
後ずさる僕の背中が、前に並ぶ宝来さんとぶつかった。そのままの姿勢で背後を見上げれば、憎憎しげな顔をして、宝来さんは辰さんを睨んでいた。
その顔にビビった僕は、宝来さんとも距離を取ろうと、カニ歩きのように横へとズレる。そんな僕をチラリと見下ろし、宝来さんが前へと押しやった。
「先に行け」
お言葉に甘えた僕は遠慮なく宝来さんの前に並んだ。
「マサ、嫉妬も大概にしないと、可愛げがないぞ」
「お前が余計な真似をしなければいいだけだ」
「愛だねー」
「だからなんだ」
僕は耳をピクピクと動かしながら、聞き耳を立てる。まぁ、普通に会話しているからそんなことをしなくても、聞こえるんだけどね。
会話の内容から察するに、どうやら二人が付き合っているって噂は本当らしい。僕にまで嫉妬するのはどうかと思うけど、恋人同士のイチャコラ会話に水を差すのもどうかと思ったから、今回は見逃して上げることにした。
僕は空気の読める大人だ。
「シロ、こんな嫉妬深い男、どう思う?」
なのに、辰さんは懲りもせず僕に話を振ってきた。こういうのを当て馬って言うのだろうか。
面倒なのは御免被りたい。だって、宝来さんと僕はバディを組んでいる。仕事に支障が出たらどうするのさ。
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