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『なるほどねー。そりゃ、あんたが悪いわ』
僕はカオさんの、こういうところが好きだ。下手な慰めの言葉は口にしない。ダメなことはダメだと、はっきり口にする。歯に衣着せぬ発言をキツく感じる人もいるみたいだけど、そこがカオさんのいいところだ。
「はい。反省してます」
『ーー宝来はなんて?』
「謝る相手が間違っているって。俺は相棒なんだから気にするなって言ってもらいました」
『ふーん』
「僕、宝来さんが苦手だったけど、誤解してたんだって分かりました」
『まぁ、悪い奴じゃないんだけどね。ただ、めんどくさくて鬱陶しいだけで』
ーーめんどくさくて鬱陶しい?
「・・・そうなんですか?」
『私はね。でも、あんたの中では印象が良くなったんなら、あいつも本望でしょう』
「・・・本望?」
僕はカオさんの言ってる意味が分からなくて首を傾げた。
『ああ、いいの。いいの。こっちの話だから。まぁ、上手いことやりなさい』
「はい」
『シロ・・・』
カオさんが、ひどく真剣な声で僕を呼んだ。その声の調子に、僕の尻尾がビクッと震える。
『大丈夫だとは思うけど、宝来がもし、もしもバカな真似をしてきたら、必死になって逃げなさいよ』
バカな真似をしてきたら必死になって逃げる・・・?僕はカオさんの言葉を頭の中で反芻した。
『殴っても蹴ってもいいから。手当たり次第に物を投げ付けたっていいわ。噛み付き、引っ掻き、何してもオッケー。とにかく逃げるの。分かったわね』
「蹴っても殴っても・・・?何してもオッケーって・・・カオさん、言ってる意味が良く分からないよ」
僕は激しく瞬きを繰り返した。物騒なことを言い出したカオさんの真意が掴めず途方に暮れた。
『いいから。約束して』
強く言われ分からないまま僕は頷いた。きっと頷かないと話は終わらないような気がしたからなんだけど・・・僕の返事に満足したカオさんが、元気よくまたねって言って電話を切ったあとも、僕は呆けたようにその場に立ち尽くしていた。
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