1

36/37

233人が本棚に入れています
本棚に追加
/153ページ
2日後、僕と宝来さんは兼松さんを迎えに行った。 都築さん、橋詰さんと一緒に佇む彼女からは、初めて見た時のような悲壮さは感じられなかった。 「この前はひどいことを言ってしまってごめんなさい」 「ううん、私の方こそごめん」 兼松さんはそう言って頭を下げてくれた。見返す目や、漂う雰囲気に穏やかな気配を感じて、僕はホッと息を吐いた。 「それじゃあ、あとは任せたよ」 「ありがとうございました」 頭を下げる彼女の肩を軽く叩き、都築さんは橋詰さんと共に消えた。 「ーー心残りはありませんか」 僕の問い掛けに、彼女の瞳が揺れる。 「心残りは・・・やっぱりあるよ。だって、もっと生きて色んなことをしてみたかった。将来の夢もあったし、結婚だってしたかった。子供だって産んでみたかった」 僕は彼女の言葉に項垂れた。 「でも、でもねっ」 彼女はそんな僕に手を伸ばす。手を掴み僕の顔を覗き込んだ。 「無理なんだって分かってるから、だからそんな顔しないで?今度生まれ変わったら、出来なかったことをするの。兼松弥生で叶わなかった夢を絶対叶えるから」 慰められて、僕は更に落ち込みそうになった。 そして、この人は強いなと思った。17年しか生きられなかった彼女は、過去を捨て未来への夢を語る。彼女の強い眼差しが、虚勢ではなく本心だと語る。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

233人が本棚に入れています
本棚に追加