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2日後、僕と宝来さんは兼松さんを迎えに行った。
都築さん、橋詰さんと一緒に佇む彼女からは、初めて見た時のような悲壮さは感じられなかった。
「この前はひどいことを言ってしまってごめんなさい」
「ううん、私の方こそごめん」
兼松さんはそう言って頭を下げてくれた。見返す目や、漂う雰囲気に穏やかな気配を感じて、僕はホッと息を吐いた。
「それじゃあ、あとは任せたよ」
「ありがとうございました」
頭を下げる彼女の肩を軽く叩き、都築さんは橋詰さんと共に消えた。
「ーー心残りはありませんか」
僕の問い掛けに、彼女の瞳が揺れる。
「心残りは・・・やっぱりあるよ。だって、もっと生きて色んなことをしてみたかった。将来の夢もあったし、結婚だってしたかった。子供だって産んでみたかった」
僕は彼女の言葉に項垂れた。
「でも、でもねっ」
彼女はそんな僕に手を伸ばす。手を掴み僕の顔を覗き込んだ。
「無理なんだって分かってるから、だからそんな顔しないで?今度生まれ変わったら、出来なかったことをするの。兼松弥生で叶わなかった夢を絶対叶えるから」
慰められて、僕は更に落ち込みそうになった。
そして、この人は強いなと思った。17年しか生きられなかった彼女は、過去を捨て未来への夢を語る。彼女の強い眼差しが、虚勢ではなく本心だと語る。
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