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宝来さんは僕をその上に乗せると、僕から離れようとした。そんな宝来さんに向かい、僕は思わず手を伸ばし行かせまいと服を掴んだ。 「あらあら、懐かれちゃって。マサ、そこに居てあげて」 先生はそう言うと、僕に横になるようにと促す。 「シロ君は、悪霊に対峙したのは初めて?」 「はい」 「そうか。じゃあ、ちょっと診るわね。動かないでね」 「はい」 先生は僕と視線を合わせると、じっと僕の目を見つめた。ううん、違う。確かに目は合っているけど、先生が見てるのは、僕の目じゃない。 もっと奥、僕も知らない頭の中の奥深い場所を覗かれている。そんな気がして、僕は怖くて心細くて、服を掴んだ手にぎゅっと力を込めた。 宝来さんが宥めるように僕の手を握ってくれた。僕はその手の温もりに縋り付く。 「ーー少し入り込んでいるわね。でもこのくらいなら、香だけで大丈夫でしょ。今日、このあと仕事は?」 先生は僕から視線を外すと宝来さんを見た。先生の視線から逃れられた僕は、ホッと息を吐き出した。 「休みになった」 「マサも?」 「ああ」 「そう。それは良かった。今日は一緒に居てあげて。一緒に居た方が魂が安定するみたいだし・・・お互いにね」 先生はニコリと笑いピンク色した小瓶を取り出した。蓋を開けると、ふわっと甘い花の香りが漂った。 その香りを吸い込んだ僕はくらりと眩暈を感じた。 「これは浄化の香よ。シロくんの中にほんの少し悪いモノが入り込んでいるから、この香りでやっつけようね」 不安げな目を向ける僕に、先生は優しく教えてくれた。 「辛かったら目を閉じていていいわよ」 僕は微かに頷き目を閉じた。頭がクラクラして、グルングルンと目が回っていた。吐くまではいかないけど、気持ちも悪くなって僕はどうなってしまうんだろうと、不安に苛まれる。 でも握ってくれる大きな手が、まるで僕を励ましてくれてるように思えたから、僕は頑張れたんだと思う。 「眠れるようなら、少し眠った方がいいわ。その間に終わるから」 先生の優しい声に導かれるように、僕の意識が途絶えた。
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