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背後を窺うように振り向けば、この家の家主、宝来さんが立っていた。 「・・・どうした?夢から覚めたみたいな顔をして。もしかして、立ったまま眠っていたのか?」 僕は戸惑うように視線を揺らした。 「・・・ここに」 ベッドの上を触る。 「・・・ここに何かが置いてあった」 小さな何かが僕を見ていた。どうして思い出せないんだろう。僕はそんなに記憶力は悪い方じゃないのに。 ぼんやりとした輪郭は思い出せるのに、それが何か分からない。まるで、僕の頭の中が思い出すことを拒否しているような気がした。 「・・・あったか?」 「うん。あった」 「そうか・・・」 そう言って黙った宝来さんを見つめる。何かを思案するような顔で、宝来さんは僕を見つめ返したあと、もう一度そうかと呟いた。 「えと・・・宝来さん?」 「なんだ?」 平素と変わらぬ『なんだ?』だ。惚けているのかそうでないのか僕には分からないけど、ひとつだけはっきりした。宝来さんには僕の知りたい答えに応えてくれる気がないんだって。 でも、それで挫ける僕じゃない。 「ここにあったのって、どこにやったんですか?」 「・・・・」 「もう一度見たいです」 食い下がる僕に宝来さんはひとつため息を吐き出すと、クローゼットへと向かった。横にスライドさせ、扉を開くと中から小振りな何かを取り出した。 ほらと、目の前に出されたそれを受け取る。茶色い色をしたその子は、クリクリとした黒い目で僕を見上げる。 『犬のぬいぐるみ』そうだ。ここにあったのは、犬のぬいぐるみだった。ーーでも、何だか違和感を感じて、僕は眉根を寄せて宝来さんを見上げた。 「宝来さん・・・この子」 でしたか?と続く言葉は口に出せなかった。目と目があった瞬間にくらりと目が回ったから。 手に持っていたぬいぐるみが、僕の手から滑り落ちる。立っていられなくて、傍にいた宝来さんへと倒れ込んだ。
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