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宝来さんは僕を抱きとめ、ベットへと座らせてくれた。
「大丈夫か?」
「・・・ごめんなさい」
僕は僕自身に戸惑う。こんなことは初めてだったから。視線が落としたぬいぐるみに向かう。
あの子は違う。あの子じゃない。クラクラする頭の中で僕はそう思っていた。
ズキッと頭の芯が痛みを訴えた。耳の奥でザアーザアーと鳴り響く雨音が聞こえた。僕の中にある何かが蓋を開けて飛びだそうとしていた。
「少し横になった方がいいな」
宝来さんは僕をベットに横たえると、僕の頭の横に、さっき落としたぬいぐるみを置いた。
「昨日、ここにはこのぬいぐるみがいた」
虚ろな目で見上げる僕に宝来さんが言った。
「ち、違います」
この子じゃない。
「違わない。シロ、俺を見ろ」
しっかりと視線を合わせ「こいつがお前が見たぬいぐるみだ」と、ゆっくりと言葉を紡ぐ。その目と、声が僕の意思を支配する。
ーー暗示をかけられてる。何故だか僕はそう思った。僕は頭の奥がかき回されるような痛みを感じて、ぎゅっと目を閉じた。
「・・・・・・悪かったな」
後悔を滲ます小さな声に、どうしてと問い掛けたかったけど、声にはならなかった。僕の意識が急速に闇の中に捕らわれてしまったから。
意識を失いたくなんてなかった。きっと目が覚めたら僕は『いつもの僕』に戻ってる。それじゃあダメなのに。
揺り動かした記憶を、宝来さんは無理やり閉じ込めるんだ。ーーーー起こしたのは宝来さんなのに。
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