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「もう、大丈夫なのか?びっくりしたよ。シロちゃんが倒れたって聞いて」 そんな声と一緒に、僕の背中にはズシリと人ひとり分の重みがかかった。誰かなんて問わなくても分かる。僕にこんなチョッカイをかけてくるのは、辰さんしかいないから。 「離れて下さい」 冷たく言い放ち、身動ぎして振り落そうとすれば、辰さんが腕を回して僕にしがみ付く。 「えーー、心配してるのに、ひどくない?」 「重いです。抱き着かないで下さい」 「だって、シロちゃん可愛いからさ。仕方ないよね?」 「意味が分かりません」 振り返れば端整な顔が、ねっと微笑みを浮かべた。きっとこの顔で世の女の子達を虜にしているに違いない。そして、宝来さんも。 そう思うだけで、僕の胸の中はモヤモヤとムカムカが湧いてくる。 「どうしたの?変な顔して」 「変な顔は元々です」 自分でもどうしてこんなにもイラついているのか分からない。でも、このニヤニヤとした顔を見ていると腹が立って仕方がない。 ムッとした顔のまま辰さんを睨んでいると、突然誰かが僕の傍までやって来て背後にへばりつく辰さんを引き剥がした。 「離れろ」 僕は不機嫌な顔をした宝来さんを見上げた。 「宝来さん」 ホッとした。宝来さんが救世主のような気がした。本当は、恋人が違う男にくっ付いているのを見るのが嫌なだけだったとしても、僕は守られているような気がしたんだ。僕の気持ちに反応して、ふわさと尻尾が大きく揺れた。 「大丈夫か」 「はい。助かりました」 「マサ、ひどいなあ。久しぶりのシロちゃんに癒されてたのに」 「嫌がってただろーが。とっとと止めてやれ」 「もう、直ぐそうやってヤキモチ妬くんだから。狭量なやつ」 仲良さげな二人のやり取りにチクリと胸が痛んだ。それでも、宝来さんから漂う剣呑な気配に僕は慌てた。
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