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◆ 静まり返った住宅街の中にある一角。緑多い公園は人影もなく物寂しい雰囲気に包まれていた。通りを歩く人も、走る車も見当たらない。閑静な住宅街において、遠くから響くパトカーのサイレン音とバイクの排気音が、やたらと耳障りに聞こえていた。 僕はそっと隣に立つ宝来さんに目を向けた。森さんオススメの神父服を着込み、手にはいつもの刀。 真っ直ぐ前を見据えた横顔が凛々しくて、見ているだけでドキドキした。 宝来さんが腕時計に目を落とす。僕も釣られたように目を向ける。時刻は午前1時25分20秒。 ーーあと1分だ。 パトカーのサイレンの音が近くなる。『前のバイク停まりなさい』と、マイク越しの声が響き渡る。 「ーーあと45秒」 見知らぬ誰かの、死へのカウントダウンが始まった。感情を伴わない声が公園の中に吸い込まれ消えていく。 「ーー30秒」 けたたましいバイクの排気音と、パトカーのサイレンの音が近付いてくる。僕は眉を顰め、うるさい音に耐えきれず耳を倒した。 「ーー20秒」 明るいライトが公園の入り口を走り去り、その後ろを赤色灯を回した車が追いかけて行った。 「ーー10秒」 バイクとパトカーは公園の周りを一周し、再びその姿を現した。 「ーー5秒」 ヘルメットをしていない金色の髪をした少年が、バイクと共にその姿を現わす。公園の入り口はひとつだけ。追い詰められた男は公園内へとバイクを乗り入れた。 パトカーのサイレンの音がやむ。バイクの排気音だけが響く中で、それは起こった。突然ハンドルを取られたかのようにバイクが方向を見失う。男の顔に恐怖の色が浮かび上がる。金色に染め上げた髪がふわりと風に舞い、バイクは横滑りして木の根元に激突した。男の体が宙へと放り出され、地面に打ち付けられる。 「ーー時間だ」 その声に僕は、ピクリとも動かない男の元へと歩みを進めた。
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