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1日の仕事を終えた僕は「お疲れ様でした」と挨拶をして帰ろうとした。でも、宝来さんに腕を掴まれ阻止された。
何かあったのかなって、掴まれた腕を見てたら「シロ、このあとお前の家に行くぞ」と、告げられる。
「・・・え?」
僕は言われた意味が分からなくて目を瞬いた。
「明日は休みだろ。これからシロの家に行って、少し寝たあと今日、明日にかけて掃除だ」
「え・・・」
戸惑う僕を無視し、宝来さんは腕を掴んだまま歩き出す。反対側の手には小振りのボストンバッグが握られていた。
「掃除って・・・?」
「約束してただろ?」
「でも・・・」
約束はしたけど、本気にはしてなかった。だって、自分の家の掃除だけでも面倒なのに、人の家の掃除なんて本気でやりに来るなんて思わない。
カオさんは来てくれたけど、見るに見かねて仕方なしだったし。
「僕、あんまり困ってないですよ?」
「何がだ?」
「部屋が散らかってるの」
「・・・だろうな」
ため息混じりに同意されて、ほんの少しムッとする。フンと顔を背けて「だからいいです」と、断りの返事を返した。
「お前が良くても俺が困るんだ」
「何で宝来さんが困るんですか」
「いつまで経っても、お前の家に遊びに行けないだろ?」
真面目な声で言われて、僕は宝来さんに顔を向けた。
「・・・遊びに?」
「ああ」
「僕の家に?」
「・・・イヤか?」
僕はブンブンと頭を振った。イヤじゃない。イヤな訳がない。誰かが僕の家に遊びに来るなんて初めてだから、凄く嬉しい。
僕の尻尾も喜ぶように激しく振れる。宝来さんの体をバシバシと叩く。
「シロ、痛えよ」
ごめんなさいって謝ったけど、最近の尻尾は僕の言うことを全然聞いてくれなくて、今回も止まれって念じる僕の命令を無視した。
だから、落ち着くまでは宝来さんから少し離れて歩いた。じゃないと、僕の尻尾は宝来さんへ攻撃し続けることになったから。
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