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仕事場から僕の家までは二本の電車を乗り継ぐ。宝来さん家とは逆方向の電車だ。
電車を降りてから10分ほど歩けば、僕が住む1Dkのマンションに到着する。3階の角っこが僕の部屋だ。
「びっくりしないで下さいね」
「大丈夫だ」
「絶対ですよ?」
「ああ」
ここまで来る間に何度か繰り返した会話を交わし、僕は部屋のドアを開けた。
玄関に入り、電気を点けた。玄関から一直線に廊下が続き、浴室、トイレの扉を右側に過ぎるとリビングに繋がる扉を開ける。
宝来さん家よりは狭い部屋の中は、脱ぎ捨てられた服と、洗濯して出しっ放しの服、その他雑多な物で、足の踏み場もない状態だった。
机の引き出しやクローゼットの扉も開きっぱなし。
まるで、泥棒に入られ荒らされたあとのような様相を呈している。チラリと宝来さんに目を向ければ、部屋の中を見渡し苦笑していた。
「ーー生ゴミは溜め込んでいないようだな」
「あ、うん。それは捨てるようにしている」
食べたあとの弁当の箱や生ゴミは匂いが出るから捨てている。
「上出来だ」
「え?」
「もっと酷い惨状を想像してたんだが、ゴミを捨てられるんならマシだな」
まさか褒められるとは思わなくて、僕はポカンと口を開けて宝来さんを見上げた。
「どうした?」
僕の様子に不思議そうな顔をする宝来さんに、何でもないと首を振る。でも嬉しさはじわじわと胸の奥に湧いて来て、緩む頬を両手で抑えた。
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