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「何か未練はないかって聞かれて、こんなしょうもないことしか浮かばないって、情けないよな」 ため息と共に口にした言葉に僕は「そんなことはないですよ」と否定した。 「慰めなんていいし」 どこか投げやりに呟く松波さんの顔はどことなく拗ねていじけてるようにも見えた。 「慰めなんかじゃないですよ?ーーいきなり人生が終わったんです。混乱して何も考えられなくなるのは当然です。明確に自分の未練を口に出来る人って言うのは、実際には少ないんです。ただ、思いに囚われたままだと、松波さんが辛い思いをしてしまうから、お聞きしただけで。・・・ほんの少しでも憂いをなくして旅立って欲しいから」 「・・・みんな、どんな未練を引きずってんだ?」 「様々です。交わした約束を守りたいって方もいれば、ずっと悩んでいたことに心を捕らわれてしまう方もいます。あとは、残された家族のことを心配される方もいらっしゃいますし」 「でも、俺みたいな下らないことを言った奴はいないよな」 「いえーー」 「俺は、大枚叩いて買った酒が、俺が死んだあと誰の手に渡るのか気になった」 尚も自虐的な物言いをする松波さんに、そんなことはないと伝えようと思った。そんな僕の声を遮るように、宝来さんが言った。 僕がキョトンと宝来さんを見上げると、ほんの少し頬を赤らめ宝来さんが顔を背けた。 「それが俺の未練だ」 ぶっきらぼうにボソッと呟く。ああ、やっぱり宝来さんは優しいなって思った。相手の思いをちゃんと汲み取って上げることが出来るんだ。 僕は嬉しくてニコニコと笑ってしまう。マントの中ではブンブンと勢い良く尻尾を振りたくり、マントと擦れる音が辺りに響いていた。
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