俺のエース

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SATの5年の任期を終え、俺は以前から誘われていた刑事3課に移動になった。 レンジャーにおとらぬ過酷な訓練の日々を自分が育て上げたエーススナイパー久保田理人を懐かしく感じる余裕がうまれ始めた日々に事件は何時も突然やって来る。 その日3課で業務をこなしていると課長が俺を呼んだ。 課長のデスクの前で課長が渋い顔をして備え付けの内線電話を指す。 受話器を取って聞くと聞きなれた元職場の上司の声だった。 吉田昭成、警備部警備課、いわいる機動隊所属の彼自身は師範代の特練員で柔剣道と逮捕術の先生で中間管理職だ。 「おぅ、悪いSAT狙撃班の新人がヘマしやがった。分かるだろ?うちの元エースの相棒が現場に居るそんで、元エース様がぶちギレでな、現場に出る為にお前がいる。今すぐこい」 ーーー要するに、俺の元相棒は新人が入りその新人を一人前のスナイパーにするためスポッターに、そのスナイパー様がまさかの現場巻き込まれで、そうなると元相棒に相棒が居なくて現場に出れない。俺に連絡して寄越したってことはスポッターとして元エースとツーマンセルを組めって事か… 署内を走り元職場に駆け付ける。 バン、とドアを開けると現場に出る前の軽いブリーフィングが行われていた。 視線が集まる。 口笛や軽口が叩かれる。 『エースコンビ復活』『エースの女房が帰ってきた』『エースの神業が出るな(笑)』 うちの署の狙撃班のツーマンセルは野球のピッチャー、キャッチャーのようにスナイパーを旦那スポッターを女房と例える事がある。 人混みの中で、いかついSAT隊員の中で低めの身長で華奢に見える元相棒と目が合う。 神経質で傲慢で誰よりもストイックで自分にも人にも厳しい彼。 側に寄って聞く「装備は?」彼は 「俺が使っている装備を覚えているかぎりで貴方の癖に合わせました、スナイパーライフルは俺が予備で使っているものを現場で合わせて下さい」 表情が何時もより硬い気がして、理人の手を握る。 固く強ばって冷たい。 緊張か、現場にいる相棒への心配か、俺は以前彼に言い続けた言葉を呼吸のように吐く。 「俺のエース、盤上を支配するクイーン、一撃必殺のジョーカー、お前ならやれる」 耳ざとい連中が口笛を吹いた。 握った手が握り返される。指先に温もりがともる。 (了)
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