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私があからさまに戸惑っていると、幸人さんに投げられたせいで背中から店の床に落ちた男性は寝転がっている体勢から起き上がり、立ってズボンについた汚れをはたいて取ると笑った。
「相変わらず、幸人は恥ずかしがり屋だなぁ」
「誰がお前なんかに恥ずかしがるか!」
「またまたー」
お客さんはにやにやしている。一方の幸人さんはとてつもなく怒った顔をしている。今にも、握りしめている右手でお客さんのことを殴りそうだ。私は慌ててカウンターから出て、無理やり二人の間に入った。
「ちょ、ちょっとお二人とも落ち着いてください!」
幸人さんの振り上げている右手を止めるために、全力で腕にしがみつく。しがみついたはいいものの幸人さんの腕の力が強くて全体重かけて後ろに引っ張ってもなかなか下ろせない。
「ゆ、幸人さん、手!手を下ろしてください」
「止めるな。小娘。こいつは殴らないとダメな人物だ。殴らないと俺の腹の虫がおさまらない」
そして、幸人さんはさらに腕に力を籠める。私は若干つま先立ちになりながら腕に必死でしがみついた。
「幸人さん!この人に幸人さんが怒っているのは分かりました!ですが!ここで乱闘騒ぎをしたら、店の物が壊れます!けがをして、血が床につくかも!だからやめてください!」
幸人さんの力が少し弱まる。
「別に私はこの人をかばっているわけじゃありません!」
「おいおい、君ひどいなぁ」
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