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幸人さんの腕の力がどんどん弱くなっていくのを感じ、私は腕を外した。幸人さんの顔を恐る恐る見るといつも通りの表情に戻っていた。
「それにしても、想像以上だったよ。君の名前はなんていうの?」
男性のお客さんがニコニコしながら聞いてくる。
「木戸、咲良です」
「いい名前だね」
「ありがとうございます。お客様の名前は?」
「俺?俺は山田俊」
「俊さんですか?」
「うん」
「それで?お前は何のつもりだ?」
幸人さんのとげとげしい声が響く。
「どういうつもりというと?」
「とぼけるな」
「そんな怖い顔するなよ、幸人。ちょっと実験してみただけじゃないか」
「実験?」
私がつぶやくと、お客さんはにこにこしたまま言った。
「君を使ってね」
「私?」
「うん」
「幸人がどんな反応するのか気になって」
「え、え?」
男性はにこにこしつつ、目は笑わずにかすかに表情を変化させて言う。
「君は全く気付かなかったね。俺はね、君と話している間ずっと」
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