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私がじっと男性の言葉を待っていると、男性の頭が俯いた。いや、正確に言うと俯かされた。幸人さんの手によって。いつの間にか男性の後ろに移動していた幸人さんは男性の口が開くと同時に手に持っている原稿用紙で思いっきりはたいたのだ。あれ?原稿用紙?カウンターのわきに慌てて目を動かす。やっぱりない!
「幸人さん、それ私の原稿です!」
「え?あぁ、ごめん。つい、腹が立って。自分の手でたたくのは嫌だったから近くにあるものを取ったらこれだった」
「それにしても、私の原稿を使うのはやめてください。折れ曲がります」
「すまない」
「二人ともおかしくない!?幸人が真っ先に謝るべきなのは俺だし、君は君で幸人の暴挙を止めるべきでしょう!?」
幸人さんと私は顔を見合わせ、首を傾げた。
「先に仕掛けてきたのはお前だろう?仕返しをして何がわるい」
「私も実験に使われたと聞いていい気はしませんでしたし」
「わかった。わかった。俺が悪かったよ。にしても、」
男性が今までの笑みが全てうそだったかのように表情が一切ない顔で私を見た。
「君は面白いね。咲良さん」
私の体が固まる。蛇に睨まれた蛙とはまさに私の今の状態だろう。固まっている私を見て幸人さんが不思議そうに問いかける。
「どうした小娘?」
「お前が今まで怖かったからおびえてるんじゃないの?」
そういいながら、俊さんは後ろから幸人さんの肩に手を回し、幸人さんは迷惑そうにその手を振り払った後、わずかに不安がにじみ出た表情で私を見た。
「そうなのか?小娘」
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