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「もとより、お前に理解してもらいたいとは思ってないからな」
「ひどいなぁ。そんなに咲良ちゃん『お気に入り』なの?」
俊さんは相変わらずの飄々といた表情で尋ねる。なんだか、俊さんの言うお気に入りって言葉、嫌だなぁ。しかも、俊さんと私同じ大学ってことはキャンパス内で会う可能性があるっていうことだよね。気が重くなった。
「そんなわけではない」
「じゃあ、俺と咲良ちゃんだったら?」
「小娘のほうがまだ幾分かましだな」
先ほどまで、うつうつとした気分だったのに幸人さんの言葉を聞いたとたんに気分が向上する自分がいる。間違いなく、今、私は顔が緩んでいるだろう。隠さなければ。顔を引き締めようとしたとき、俊さんと目が合った。
「咲良ちゃん、顔緩んでるね。もしかして嬉しかった?」
その言葉に反応して幸人さんが私を見た。
「緩んでないじゃないか」
よかった。間に合った。私は幸人さんの視線が自分から離れたので、自分の顔をそっと手のひらで包んだ。うん、いつも通り。顔を上げると俊さんと目が合う。俊さんは口をゆがめ、
「へぇ」
とこぼすと、すぐに元通りになった。
「そうだね。俺の勘違いだったみたいだ」
俊さんは幸人さんに微笑みかける。幸人さんはふと、真顔になった。
「それで、いったい今日は何の用だ?」
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