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「やっと帰ったか」
幸人さんがひそかにため息を吐く。そんないつもより疲れた表情の幸人さんを私は見上げた。
「幸人さんにもお友達いたんですね?」
「さっきの話聞いてたか?」
幸人さんに呆れた目を向けられた。
「聞いてましたよ?聞いたうえでそう思ったんです」
正直、俊さんは私にとって苦手なタイプだ。それは間違いない。でも、俊さんに対する私の警戒心や恐怖感を除いて見たとき、二人は気兼ねない仲のように見えた。
「幸人さんが素を見せている姿、初めて見ましたから」
川端さんと私以外で。そのことに対して、自分は何様だと思うけれど安堵を抱いた自分がいた。
「あれが素でないとしたら?」
「その可能性もありますね。まぁ、私からしたら暴言を吐く幸人さんさんが素に見えますから」
幸人さんの本当の素なんて、幸人さんが自分で思っている自分の素なんて私にはわからないけど、私が見えている幸人さんの素はそうなんだ。
「暴言を吐く幸人さんのほうが接客の時の好青年な幸人さんより自然に見えます。私にとっては」
「そうか」
そういったきり、幸人さんは黒い水面に視線を落とした。
「今回は、『小娘に俺の何がわかる』みたいなことは言わないんですね」
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