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顔を上げ、幸人さんに対しにっこりと笑った。
「それで、幸人さんは何故苦手とする俊さんがいると分かっているにもかかわらず降りてきたんですか?」
「それは、教えない」
「え?」
「教える必要もないだろう」
「私が知りたいです」
「俺は教えたくない」
無言で見つめあう。
「分かりました。聞きません」
これ以上粘っても教えてはくれないだろう。
「そうか」
幸人さんがほっと安心したように息を吐き出す姿を見て心にもやもやしたものが広がる。私はそれを振り払うように数度首を小さく振った後、また幸人さんを見た。
「でも、俊さんは何か悩みがあるんでしょうか?」
「なんでだ?」
「だって、ここにきている人ってほとんど何かしら抱えている人じゃないですか」
「まぁ、そうだがごくたまにそうじゃない奴もいる」
「例えば?」
「例えば、そうだな。ここを強く認識しているとかな」
「強く認識?」
幸人さんは私の目を挑戦的に見つめた。
「小娘ってここの店が立っている通りをこの店に入るまで通ったことはなかったか?」
「この店に入るまでっていうと私が一年前初めてこの店に入る前っていうことですか?」
「そうだ」
私は記憶をたどる。
「ありますね。それも一回だけでなく何度も」
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