第一章

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「そうか。その時この店の記憶ってあるか?」 「ないですね」 「そうだろう」 幸人さんが満足げにうなずく。 「じゃあここの店にアルバイトに来るときはどうだ?」 「完璧に認識はできてますね」 「つまりそういうことだ」 「この店に一回ご来店した人は全員認識できるということですか?」 「そうだ」 「その割にはリピーターが少ないですね」 私が今までバイトをした中で、2回目に来店した人は見たことがない。ここは、落ち着くしコーヒーも出てくる。その上帰る頃には自分の悩みが解けているともなれば、もう一度来ようとする人は決して少なくないと思うのだけど。 「あぁ、大概は悩みが解けたことによってこの場所に用はなくなるからな」 「ん?ということは、まだくる人は悩みがある?」 「そういうこともあるだろうが、結局のところは用があるかないかだ」 「なるほど。だとするとこの店を今まで強く認識していない人が入った場合、それは悩みを抱えている可能性があると」 「そういうことだ」 「俊さんは今は強く認識していて、この店に用がある人ということですね?」 「あぁ」 「一度この店に俊さんはきたことがある」 「そうだな」 幸人さんがなんともない様子で頷いた。私はちらりと見て幸人さんのその反応に納得する。 「俊さんはその時、相談したんですか?」 「それは秘密だ」 幸人さんはらしくもなく自分の口の前に人差し指を持ってきていたずらにほほ笑む。私がそれを見て不満そうな顔をしていたのだろうか。幸人さんが愉快そうに声を上げて笑う。 「小娘、そんなふてくされたような顔をするな。個人情報はここでも重要なんだ」 そういった後、幸人さんは私を見て少し嬉しそうに笑った。 「小娘も少しは感情豊かになったな」 「そうですか?私はもとから感情が豊かなほうだと思いますが」     
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