第一章

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ある程度切りのいいところまで進み、ふと顔を上げる。時計を見ると幸人さんがどこかに行った時刻からすでに10分ほどたっていた。幸人さん、まだ戻ってこないなぁ。どうしたんだろう?私は再び席を立って奥を覗き込む。やっぱり人の気配はしない。奥を見に行くか行かないかで迷っているとお店のドアが開いた。急いで振り返る。 「いらっしゃいませ!」 「あ、あれ?」 店に来た20代ぐらいだと思われる男性はいったん店を出て、また戻ってきた。向こうも不思議そうな顔をしているが今の私の顔も不思議そうな顔をしていると思う。この人は一体何をしたかったんだろう?私はとりあえず、男性が立っている入り口付近まで歩き、普段幸人さんがやっているように席までエスコートする。 「いらっしゃいませ。あちらの席にどうぞ」 男性は戸惑いの表情で私の斜め後ろをついてくる。私は横目で男性をちらりと見た。年とか背格好は大体幸人さんと変わらないくらいかな。もしかしたら私と同じ大学生の可能性もある。清潔感のある服装で、異性、女性からモテそうな感じだ。さて、幸人さんがいないから私一人で接客しなければならない。つまり、私一人でこの人の悩みや後悔を引き出さないといけないわけなんだけど、できるかなぁ。 「お座りください」 男性が座るのを見て私もカウンターに入る。男性は私を食い入るように見ている。何か私の顔についてるのかな? 「お、お客様?どうかされましたか?」 男性がはっとしたように目を見開いた。 「あの、ここの従業員って君一人だけ?」 「いえ、もうひとりいます」 「その人ってさ、男性?」 「男性ですが、それがどうかしましたか?」 「いや、ちなみにその人って浮世離れしてる?」 なんでそんなことを聞くのだろう?疑問に思いつつ頷く。男性はその途端顔を輝かせた。 「やっぱそうか!いやぁ、よかったよ。もしかして店を間違えたのかと思った。確かめるために外にいったん出てみたんだけど、そういやここ看板なかったこと思い出してさぁ」 途端に饒舌になる男性。いったいこの人は何なんだろう?幸人さんのことを知っているみたいだけど。
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