第一の事件

4/11
前へ
/117ページ
次へ
 みかんも立ち上がった。私は慌てて二人に挨拶をし、ノートに暗号をメモして退出する。正直このまま悩んでいてもわからない。色々なことがあり混乱しているが、そうでなくともこの暗号は解けないだろう。だが一応悩んではみる。  大広間を出てラウンジのソファにでも座るつもりだ。  後ろを歩く人間の声が耳に入ってきた。 「むずかしいー、あたし全然わかんない」 「そう? 簡単だよこんなの」 「えーホームズさんもうわかったんですかぁ?」 「まあ初歩的な暗号かな。伊達に推理小説のファンじゃないよ」 「すごーい」 「ヒント、ほしい?」 「ほしいほしい!」  男女だ。男の方はホームズという名前か。女性は甲高い、甘ったるい声だった。ちらりと目をやると、見た目も可愛らしい女性だった。くるんと巻いた茶髪を跳ねさせながら、ホームズに助言を乞うていた。 「じゃ、うさぎちゃんの連絡先と交換なんてどう?」 「えーどうしよっかなあ」  あの可愛い子はうさぎという名か。というか連絡先訊くのはルール違反なんじゃないのか、と疑問に思いながらも聞き耳を立ててしまった。  しかし私の心の中にある良心がそれを咎める。  私は足早にソファへと向かい、座り込んだ。随分と弾力がある。ベットもそうだが、ふわふわで気持ちがいい。高価な品物とはこんなにも良い物なのか、と知った。  足の上に先程のノートを広げる。少しは考えてみたい。子供になったようで結構楽しいぞ。 「えーと…臼は石、口は北、藻は芽、事件は紅にて待つ…」  共通点が思い浮かばない。臼が石からできている・・・が、口が北とは? 藻は海藻か? なぜ急に紅…色が出てくる? ホテル中に紅の物なんて山ほどあるぞ。  そもそも紅の読みは『あか』なのか『くれない』なのか『べに』なのか? 「うーん…」  腕組をしていると、他参加者がよく私の視線の中に入ってくる。私の前を通りエレベーターに向かっているようだ。もう部屋にもどる、わけもないだろう。  見ていると、皆二階に行っている。二階は…宴会場とテラスがあったはずだ。先程渡された館内図を取り出し、確認した。  二階には宴会場が五つ。一つ他の部屋よりも大きい松の間。残り四つは各々、楓の間、 桜の間、ブナの間、紫雲英(げんげ)の間。テラスも…。 「あ」  なるほど、わかった。  私も二階へ行くことにした。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加