74人が本棚に入れています
本棚に追加
みかんも立ち上がった。私は慌てて二人に挨拶をし、ノートに暗号をメモして退出する。正直このまま悩んでいてもわからない。色々なことがあり混乱しているが、そうでなくともこの暗号は解けないだろう。だが一応悩んではみる。
大広間を出てラウンジのソファにでも座るつもりだ。
後ろを歩く人間の声が耳に入ってきた。
「むずかしいー、あたし全然わかんない」
「そう? 簡単だよこんなの」
「えーホームズさんもうわかったんですかぁ?」
「まあ初歩的な暗号かな。伊達に推理小説のファンじゃないよ」
「すごーい」
「ヒント、ほしい?」
「ほしいほしい!」
男女だ。男の方はホームズという名前か。女性は甲高い、甘ったるい声だった。ちらりと目をやると、見た目も可愛らしい女性だった。くるんと巻いた茶髪を跳ねさせながら、ホームズに助言を乞うていた。
「じゃ、うさぎちゃんの連絡先と交換なんてどう?」
「えーどうしよっかなあ」
あの可愛い子はうさぎという名か。というか連絡先訊くのはルール違反なんじゃないのか、と疑問に思いながらも聞き耳を立ててしまった。
しかし私の心の中にある良心がそれを咎める。
私は足早にソファへと向かい、座り込んだ。随分と弾力がある。ベットもそうだが、ふわふわで気持ちがいい。高価な品物とはこんなにも良い物なのか、と知った。
足の上に先程のノートを広げる。少しは考えてみたい。子供になったようで結構楽しいぞ。
「えーと…臼は石、口は北、藻は芽、事件は紅にて待つ…」
共通点が思い浮かばない。臼が石からできている・・・が、口が北とは? 藻は海藻か? なぜ急に紅…色が出てくる? ホテル中に紅の物なんて山ほどあるぞ。
そもそも紅の読みは『あか』なのか『くれない』なのか『べに』なのか?
「うーん…」
腕組をしていると、他参加者がよく私の視線の中に入ってくる。私の前を通りエレベーターに向かっているようだ。もう部屋にもどる、わけもないだろう。
見ていると、皆二階に行っている。二階は…宴会場とテラスがあったはずだ。先程渡された館内図を取り出し、確認した。
二階には宴会場が五つ。一つ他の部屋よりも大きい松の間。残り四つは各々、楓の間、
桜の間、ブナの間、紫雲英の間。テラスも…。
「あ」
なるほど、わかった。
私も二階へ行くことにした。
最初のコメントを投稿しよう!