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二階に着くと、他階と同様に緋色の絨毯が敷き詰められている。ロビー中央に飾ってあったような展示品がガラスケース内に綺麗に陳列されていた。地図によると一番奥に松の間、その手前に四つの小宴会場があったはずだ。小宴会場といっても百人以上が収容できそうな空間だが。
「ブナの間は…」
部屋の入口右手側に各間の名が書かれてあった。掲げられている札も高価そうだ。
私の目的のブナの間は一番手前、向かって左側にあった。中に入り、当たりだと確信する。
中にはすでに十数人の参加者が立っていた。この宴会場は和室のようだ。靴を脱ぎ私も畳の上に上がる。
部屋の奥、左側の角で女性が仰向けで倒れていた。左胸のプレートには『太田透子(被害者)』と書かれている。首を絞められ殺されたことを示すように、首には縄が巻かれ、痛々しい跡が残っていた。
彼女の遺体の傍らには『鈴木慎太(刑事)』というプレートを付けたスーツ姿の男が立っている。
私が近寄ると、説明を始めた。
「被害者は太田透子三十歳。フリーライターで主に旅行雑誌に記事を掲載していたようです。絞殺ですね。被害者の周囲の人間の情報によると、彼女は仕事で得た情報を元にして誰かを脅迫し金銭を得ていたようです」
「なるほど」
一応相槌を打っておく。
「彼女のスケジュール帳を入手しました。どうぞ」
紙が一枚渡された。スケジュール帳のコピーだ。
『〇〇日、3九と食事、麻布』
『〇×日、4九と映画、渋谷』
『××日、8八から入金確認』
『×〇日、1九と取材旅行』
…暗号のように書かれている。本日の日付の欄には『8八と夕食、場所未定』と記入されている。
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