プロローグ

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『イヨミステリーゲームへようこそ。 お手数をお掛けいたしますが、この回転扉を進みフロントまでお越しください。 フロントにて係員がご案内いたします。 また、係員の指示があるまでは言葉を発しないようにお願い申し上げます。 お守りいただけない場合はお帰りいただくこともございますので(あらかじ)めご了承ください。』  山奥にあるリゾートホテルに着いた私は回転扉に張り付けてあったその注意事項をじっと読んだ。  人生三十年少々を生きてきて、ミステリーツアーなるものに参加するのは初めてだった。  会社の上司から急に呼び出され、会社の取引先のお偉いさんに頼まれたとかで無理矢理一週間のミステリーツアーに強制的に参加させられている。 「頼むよふくちゃん。君を名指しで指名されたのね。資産家の奥様が道楽半分で開催してるらしい。詳しくは知らないけど交通費と飲食費は無料、場合によっては賞金も出るらしいよ。骨休めに、ね」  らしいらしいと言われても信用がないが、ちょうど仕事も一段落したところだし会社も出勤扱いにしてくれる、おまけに開催場所が高級リゾートと聞いて了承した次第だった。ゲーム中は外部と連絡が取れないらしいが、近々籍を入れる予定の彼女も笑顔で送り出してくれた。  ミステリーなどとは縁もなく、たまにテレビでやっている二時間サスペンスや刑事ドラマを流し見する程度だが、気分転換になるとも思った。流れに身を任せ仕事のことは忘れのんびりしたい。  リゾートホテルというだけあって豪華な外観だ。送迎してくれたタクシー運転手はまったく喋らない不愛想な男だったし、どこへ連れていかれるのか不安だったが、開催者が資産家というのは本当だろう。このようなホテル、しがないサラリーマンには一生縁がない。  珍しさからきょろきょろと辺りを見回しながら回転扉を通る。  高い天井には立派なシャンデリアが散りばめられている。次に目に飛び込んできたロビーに敷かれた絨毯は真っ赤でふかふかだ。赤というより緋色に近い。もちろん汚れ一つない。壁には上品な観葉植物が整然と配置されていた。    ロビーの中央には何やら高価そうな陶磁器が置かれている。重量感があり頑丈そうで、真っ白な中に藍色で模様が描かれていた。
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