しばしの休息を

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 フロント係に解答用紙を提出した後、コーヒーが飲みたくなったためその足で喫茶店へと向かった。時刻は昼過ぎだったが席は空いている。同階にあるレストランで食事をしている人が多いのかもしれない。  私は喫茶店でアイスコーヒーとサンドイッチを注文し奥の席に腰を下ろした。  持って来た新聞を広げる。 「これは…」  新聞は非常に手が込んだ偽装新聞だった。  新聞名は『イヨ新聞』。ニュースの一面は昨日のブナの間の殺人事件だ。被害者の大野透子の写真や仕事仲間の話などを掲載している。  その他のニュースは当たり障りがない、豆知識のようなものばかりだ。よくよく見れば、詰将棋のページが大きく取られている。なるほど、いくつかヒントを散りばめているのかもしれない。  しかしながら、私はもう解答用紙を提出してしまった。仕方がないので詰将棋を解いてみるか。 「お待たせいたしました。アイスコーヒーとサンドイッチです。また、こちらはサービスです。お飲み物をご注文されたお客様全員にお出ししております」 「どうも」  出された小皿を見れば、最中(もなか)である。コーヒーより日本茶の方が合う気がするが、無料なので文句は言うまい。 アイスコーヒーは適度な酸味が旨く、サンドイッチも申し分ない。ここの食事は当たりばかりだ、と一人満足した。 「ホームズさん、本当にあの名探偵、シャーロック・ホームズみたい」  私の席の斜め向かいに、昨日私の後ろを歩いていたホームズとうさぎが座った。距離はあるが客が(まば)らなため会話が聞き取りやすい。おまけに、うさぎの声は良く耳に届く高さだった。聞き耳を立てるとかそういうつもりはないが、自然と耳に入ってくる。あからさまに席を変えるのも(はばか)られた。  二人の会話をできるだけ気にしないように自分に言い聞かせながら、私は黙って食事をしつつ新聞の将棋欄を見る。 「そうかなあ。あんな簡単な問題、朝飯前さ。まあ女性には難しいかもね。指したことないんでしょ」 「さす?」 「ああ、囲碁は打つ、将棋は指すって言うんだよ。駒を打つ時は打つって使うんだけどね」 「えー難しい」  ホームズの言葉に私はコーヒーを零しそうになった。  …まさか、事件の解答を教えてしまったというのか。ずるじゃないか。
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