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仮眠を取って目を覚ましたのは午後四時半過ぎだった。腕時計のアラームで慌てて起き顔を洗った私は、一階の大広間へと足早にやって来た。
ネームプレートを胸元に付け、部屋の鍵だけ持って下りてきたのだ。
大広間はこれまた豪華だった。五百人ぐらいは収容できるのではないか。立派なステージがあり、丸テーブルが並べられている。テーブルの上にある食器やグラスも綺麗だ。結婚式の披露宴会場と間違えたのかもしれないと、まだ寝ぼけた頭で思った。
広間の入り口に受付がある。誘導され、そちらに向かった。
「ようこそミステリーゲームへ。アオ様、ですね。こちらをどうぞ」
受付のスタッフに大学ノートサイズの茶封筒を渡された。
「お好きなお席にどうぞ」
「はい」
こういう時前に行くのは苦手な性分だ。一番後ろの左端のテーブルに決めた。席はステージがよく見えるようにか、ひとテーブルに三人分しか席がない。
席に座り先程受け取った茶封筒の中身を見た。ホテル内の地図と大学ノート一冊、ボールペンが二本入っている。ゲームで使うのだろう。
「ここ、よろしいですか」
「あ、はい。どうぞ」
隣の席に座ってもいいかと質問され、慌てて顔を上げ了承した。見れば同時刻にフロントにいた細身の男だった。確かニックネームを書き直させられていた人だ。眼鏡の奥から鋭い眼光が覗く。
「はじめまして。浅見です」
新たなネームは浅見に決まったらしい。
「はじめまして。アオです」
浅見? 名前そのままは駄目ではなかったのか?
そう思いながらネームプレートをじっと見つめてしまったようだ。
すると彼が勘違いしながら語ってくれた。
「おわかりでしょう? 浅見光彦です」
ああ、あの名探偵の、と合点がいった。ミステリーに興味のない私でも名前ぐらいは知っていた。浅見はそのまま続ける。
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