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ある日、姑が友達と会うというので駅前まで車で送っていき、家には私ひとりだった。仏間の荷物が気になった。
ガサゴソ、と音がした。
――荷物の中から。
実は、それが違法な薬の類ではと考えたことがあった。家族への信頼から否定したけれど。その仮説は、やはり正しくなかった。中には動くものが入っている。
確かめたい気持ちがあった。
幸い、段ボールはガムテープではなく、紐で簡単に封をされているだけだ。誘うようにそれは少し緩い。
紐に手をかける。する、とそれは簡単に解けそうになる。その時だ。
「なにをしているの?」
まだ迎えに行っていないはずの姑の声が背後からして、飛び上がりそうになった。言い訳を考えつく前に姑がその箱に手をかける。
「だめよ、これはねぇ」
いつもの優しい口調で言いながら、緩んだ紐を一度取ってしまう。その瞬間、人間の指先が数本、中から伸びた。死人の、紫がかった白い色をしていた。
姑は顔色も変えず、蓋を開け外に出ようとするそれを無造作に中に押し入れながら、紐をかけ直した。きつく結び終える頃、それはもう動かなかった。
「これは、不幸だから。開けずに流せばいいだけなのよ」
どこに。などと、聞くことなどできるはずはない。
姑は私を叱らなかった。
旦那や舅からも、叱責はなかった。
これまでの態度はひとつも変わらず、けれど荷物は配達される毎日が過ぎていった。
――これがきっとあと何十年も続く。それがこの家の普通。
私が耐えられなかったのは、それだった。
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