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上空へかざしたスマホ。そこから小さく君の声が聞こえた。 そうして君は、また冒頭五秒私に気づかない君に戻った。 それは翌日になっても翌々日になっても変わらず、もう私の元へ駆けつける君はいなくなる。そこにいるのはただ、私との待ち合わせで動画を撮られていることに気づかないちょっと鈍感で怒っても怖くない君だった。 私はその画面を愛しくそっと撫ぜる。きっともう、大丈夫。 押すことなんて考えられなかったゴミ箱マークへと指先を伸ばす。大丈夫。君がいない日々をきっと私は歩いていける。軽くタップ。引き留めるような選択肢もタップ。そうして五十八秒の君はいなくなった。 終わり
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