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最初の五秒、君は気づいていない。
時おり前を通り過ぎる人々の向こう側で、私が歩いてきている方角の反対側を見ている。当たり前だ。その日は電車の出口を違う方から出てきたのだ。
六秒目で君は気づく。
ふとこちらに向けた視線をやや上に向けているのは、このスマホを持っている私がその時に手をあげたからだ。
思わず「ふふ」ともれる私の音声が入ってしまった。これは失敗。
『今日はそっちからなんだ』
『うん、お待たせしました』
十二秒目で私たちの会話が始まる。君はまだ気づかない。
その間私は何でもないようにスマホを手に持って、でも録画ボタンは止めずにそのままにする。
今日どこ行く? あのお店もう開いているかな? なんて向き合ってするとりとめない話は三十四秒まで続く。
そして三十八秒目で、君はようやく不自然なスマホの角度に気づく。
『え、美帆もしかして撮ってる?』
『あ、バレた?』
するとくしゃっと笑った君の顔は四十五秒目。
「よせよー」と手でふさごうとするが、スマホ画面がそこで大きく揺れて2人の笑い声が響いた。
『いいじゃんいいじゃん、今日は記念日ー』
『バーカ』
顔の上半分が切れて君が映る。
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